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2025.09.30
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複数の遺言があると相続税申告はどう変わる?実務の流れを解説
相続の場面では、被相続人が複数の遺言書を残していることがあります。複数の遺言が見つかった場合、どれを基準に相続税を申告すればよいのか、相続人が混乱するポイントです。結論から言うと、遺言書は日付が新しいものが有効であり、公正証書遺言と自筆証書遺言の種類に優劣はありません。また、内容が矛盾していなければ複数の遺言が同時に効力を持つ場合もあります。
相続税申告は「相続開始から10か月以内」という期限があるため、複数の遺言がある場合でも、実務的には速やかに対応を進める必要があります。ここでは、実際の事例も交えながら、複数遺言と相続税申告の流れについて税理士の視点から解説します。
目次
1. 遺言の有効性を確認する
複数の遺言が出てきた場合、まず確認すべきは「日付」です。原則として最新の日付が有効になります。ただし、新旧の遺言の間で抵触しない部分については両方が効力を持つことがあります。
また、公正証書遺言と自筆証書遺言に種類による優劣はなく、日付で判断することが原則です。
2. 事例:80代女性の自筆証書遺言が複数出てきたケース
群馬県太田市にお住まいの80代女性が亡くなられた際、相続人の方が複数の自筆証書遺言を発見しました。
- 最初の遺言(数年前の日付)では、自宅不動産を長男に相続させる内容
- その後の遺言(より新しい日付)では、自宅不動産を長女に相続させる内容
という具合に、同じ財産について指定が食い違っていました。
この場合、日付が新しい長女に相続させる遺言が有効となります。
ただし、最初の遺言に書かれていた「預貯金を長男に遺贈する」など、後の遺言と矛盾しない部分については効力が残ります。このように複数の遺言が存在すると、どの部分が有効かを仕分けて考える必要があり、遺産分割協議や相続税申告にも影響を与えます。
3. 相続税申告は10か月以内に行う
相続税の申告期限は相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内と定められています。複数の遺言をめぐって遺産分割協議が続いていても、この期限は延長されません。
そのため、遺産の帰属が確定していなくても、一旦、相続税を申告し、後日確定した段階で更正の請求や修正申告を行うという実務対応が必要です。参照:国税庁「相続税の申告期限」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4102.htm
4. 実務の流れまとめ
複数の遺言が出てきた場合の相続税申告の流れは、以下のとおりです。
- 遺言書の有効性を確認
(最新の遺言書が古い遺言書と抵触する部分について優先される) - 抵触がなければ複数の遺言を適用
- 相続人間での分割協議が必要な場合は遺産分割協議を進める
- 相続税申告は期限を守って申告する
5. 税務上の注意点
・期限を守ることが最優先:申告期限を過ぎると加算税や延滞税が課される
・専門家に早めの相談を:税理士・弁護士の連携がスムーズな解決に役立つ
まとめ
複数の遺言がある場合、相続税申告の実務では「どの遺言が有効か」を整理することと、「期限内に申告すること」が最大のポイントです。今回ご紹介した太田市の80代女性の事例のように、遺言の内容が相続人の指定まで食い違うケースも珍しくありません。
遺言の有効性に不安がある場合でも、まずは10か月以内に申告を完了することが重要です。
■申告が必要か迷ったら、まずは専門家へご相談を
相続税申告は専門的な知識や判断が求められる場面も多く、ご不安を感じる方もいらっしゃるかと思います。
当事務所では、お一人おひとりの状況に寄り添い、丁寧にサポートいたします。
相続税の申告が必要かどうか迷われた際も、どうぞお気軽にご相談ください。PROFILE
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向田会計は群馬県桐生市を拠点として、相続・贈与申告で年間50件以上の実績を持っています。満足のいく相続解決に向けて、常にお客様の立場に立った視点でサポートしております。
創業(1970年)からの経験と知識を、皆様のお役に立てるよう精一杯発揮し、より円滑な相続の解決と相続・贈与の申告を心掛けております。
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